飲食店の残業代計算
レストラン・居酒屋・カフェで働く方の残業代ルールを徹底解説
飲食業界は未払い残業代が多い業種です
厚生労働省の調査では、飲食業は未払い残業代の指摘件数が常に上位にランクインしています。 「サービス残業は当たり前」という風潮がありますが、法律上は全ての労働時間に対して 賃金を支払う義務があります。
着替え時間、掃除時間、朝礼時間もすべて労働時間に含まれます。
飲食店で見落とされやすい労働時間
飲食業では「これは労働時間ではない」と会社から言われがちな時間が多くあります。 しかし、法律上は以下の時間は全て労働時間に該当します。
深夜営業(22:00〜翌5:00)の割増
居酒屋やバー、ラーメン店など深夜まで営業する店舗では、 22:00以降の労働に対して深夜割増25%が必要です。 さらに法定労働時間を超えていれば、残業割増と合わせて50%の割増になります。
割増率の一覧
| 時間帯・条件 | 割増率 | 時給1,200円の場合 |
|---|---|---|
| 通常残業(日中) | x 1.25 | 1,500円 |
| 深夜(22:00〜5:00)のみ | x 1.25 | 1,500円 |
| 深夜 + 残業 | x 1.50 | 1,800円 |
| 休日出勤 | x 1.35 | 1,620円 |
| 休日 + 深夜 | x 1.60 | 1,920円 |
まかない時間の扱い
まかない(食事)の時間が労働時間になるかどうかは、完全に業務から解放されているかで判断されます。
休憩になるケース
- - お客様のいない時間帯にゆっくり食事
- - 電話や接客対応の義務なし
- - 30分以上の連続した食事時間
- - 外出して食事に行くことも可能
労働時間になるケース
- - お客様が来たらすぐ対応する必要あり
- - 電話対応をしながら食事
- - バックヤードで立ったまま急いで食べる
- - 「5分で食べて」と言われている
着替え時間(制服着用)
制服やユニフォームの着用が会社の指示による義務である場合、 着替え時間は労働時間に含まれます。最高裁判例でも認められた判断基準です。
影響の大きさ
着替え時間: 1回5分 x 2回(出勤・退勤)= 10分/日
月間: 10分 x 22日 = 約3.7時間/月
時給1,200円の場合の未払い額: 1,200円 x 3.7時間 = 約4,400円/月
年間: 約52,800円の未払い
閉店後の掃除・片付け・仕込み
閉店後の以下の業務は、全て労働時間に含まれます。 「閉店時間=退勤時間」と処理されている場合は要注意です。
- 清掃 - 厨房の清掃、フロアの掃除、トイレ掃除
- 食器洗い - 最後のお客様の食器洗い、食洗機の片付け
- 食材管理 - 残った食材の保存、冷蔵庫への収納
- 翌日の仕込み - 翌営業日のための食材カット・下ごしらえ
- レジ締め - 売上計算、金庫への入金
- ゴミ出し - ゴミの分別・搬出
飲食店の残業代を計算する
🍽️ 飲食店 残業代シミュレーター
深夜営業・着替え時間を含めて計算
月の残業代
¥65,751
時給換算
¥1,503
通常残業分
¥65,751
年間概算
¥789,012
飲食店の残業代 計算例
例1: 居酒屋スタッフ・深夜営業のケース
条件: 時給1,200円、シフト17:00〜翌1:00(実働7時間+休憩1時間)、 法定内は8時間まで、22:00以降の3時間は深夜帯
1. 17:00〜22:00 = 5時間(法定内・通常時給)
2. 22:00〜翌1:00 = 2時間(深夜割増、ただし法定内8時間以内)
3. 通常分 = 1,200円 x 5時間 = 6,000円
4. 深夜分 = 1,200円 x 1.25 x 2時間 = 3,000円
1日の給与: 9,000円(深夜割増600円を含む)
※ 法定労働時間内でも22:00以降は25%の深夜割増が発生します。
例2: レストラン正社員・月35時間残業のケース
条件: 月給260,000円、月所定労働時間173時間、 月35時間の法定外残業(うち15時間が深夜22:00〜翌1:00)
1. 時給 = 260,000円 / 173時間 = 1,503円
2. 通常残業時給 = 1,503円 x 1.25 = 1,879円
3. 深夜残業時給 = 1,503円 x 1.50 = 2,255円
4. 通常残業代 = 1,879円 x 20時間 = 37,580円
5. 深夜残業代 = 2,255円 x 15時間 = 33,825円
月の残業代: 71,405円(通常37,580円 + 深夜33,825円)
例3: 着替え・掃除時間が未計上のケース
条件: 時給1,100円、毎日の着替え10分+閉店後掃除30分が未計上、 月22日勤務、法定労働時間超過分
1. 未計上の時間 = (10分 + 30分) x 22日 = 14.7時間/月
2. 残業時給 = 1,100円 x 1.25 = 1,375円
3. 未払い残業代 = 1,375円 x 14.7時間 = 20,213円/月
毎月の未払い: 約20,213円(年間約24.3万円)
※ 過去2年分を請求できる場合、約48.5万円の未払いになる可能性があります。
例4: 「店長」で残業代が出ていないケース
条件: 飲食チェーン店の店長、月給320,000円(残業代なし)、 実際の残業60時間/月、管理監督者の要件を満たしていない
1. 時給 = 320,000円 / 173時間 = 1,850円
2. 残業時給 = 1,850円 x 1.25 = 2,313円
3. 未払い残業代 = 2,313円 x 60時間 = 138,780円/月
毎月の未払い: 138,780円(年間約166.5万円)
※ 「名ばかり管理職」の場合、過去2年分で約333万円の請求が可能になるケースも。
「名ばかり管理職」問題 - 飲食店の店長は管理監督者?
飲食業界では「店長だから残業代は出ない」と言われるケースが非常に多いですが、 法律上の「管理監督者」に該当するためには、以下の3つの要件すべてを 満たす必要があります。
要件1: 経営に関する重要な決定権限がある
メニューの決定、価格設定、仕入先の選定、人事権(採用・解雇)など、 経営に直接関わる判断ができる必要があります。 本部の指示通りに営業するだけでは該当しません。
要件2: 出退勤の自由がある
自分の判断で出勤時間や退勤時間を決められる必要があります。 シフトで勤務時間が決まっている場合は該当しません。 遅刻で給与が減額される場合も不適格です。
要件3: 管理監督者にふさわしい待遇
役職手当やボーナスを含めた年収が、一般の従業員と比べて 十分に高い必要があります。残業代を含めるとアルバイトの時給を 下回るような待遇は「ふさわしい」とは言えません。
マクドナルド事件の判例(2008年)
マクドナルドの店長が「管理監督者ではない」と認められ、 約750万円の未払い残業代の支払いが命じられた判例です。 飲食チェーンの店長が管理監督者に該当しないことを明確にした 重要な判例として、現在も参照されています。
飲食店で働く方へ - 証拠の残し方
タイムカードが店長に操作されたり、勝手に打刻されたりするケースも報告されています。 自分でも記録を残しておくことが、万が一の際に重要な証拠になります。
1. 毎日の出退勤時刻を記録
スマホのメモアプリやカレンダーに、実際の出勤時刻と退勤時刻を毎日記録。 LINEで自分宛にメッセージを送ると、タイムスタンプが残ります。
2. 給与明細を保管する
紙の明細はスマホで写真を撮っておきましょう。 Web明細の場合はスクリーンショットを保存。少なくとも2年分を保管。
3. シフト表を保存する
毎月のシフト表を写真に撮っておきましょう。 実際の労働時間とシフトの差がある場合、残業の証拠になります。
4. 業務指示のメッセージを保存
LINEグループやメールでの「今日は掃除してから帰って」などの 業務指示メッセージは、労働時間の証拠として有効です。